事業計画書だけを見ているわけではない
日本政策金融公庫は、創業予定者との面談について、資金の使いみちや事業計画を聞くだけでなく、事業計画に関連する資料や「資産・負債がわかる書類」などを準備すると案内しています。
ここでいう資産・負債とは、たとえば預金など持っているお金や財産と、住宅ローンなど返さなければならない借入のことです。
そして公庫は、事業計画などを「さまざまな角度から検討」して融資を判断すると案内しています。つまり、事業計画書一枚だけで決めるわけではありません。
図解|まず全体像
まず見るのは「借りたお金を返していけるか」。本人・事業・お金をまとめて確認する
借りたお金を返していけるか
売上から経費を引いた後にお金が残るか。今ある借入や、個人事業主なら生活費なども含めて、借りた後も無理なく返済を続けられそうかを見る。
その「返していけるか」を判断するために、次の3つも見ます。
誰がやるのか
始める理由、これまでの経験やスキルなど、実際に事業を進められそうかを見る材料。
その商売は現実的か
誰に何を売るのか、売上の根拠、同じような店や会社、市場、必要な仕事量などを見る材料。
何に、いくら必要なのか
借りたい金額の理由、資金の使いみち、自分で用意するお金などを見る材料。
※実際の確認項目や重みは、金融機関・制度・申込者の状況によって異なります。
公庫の創業計画書セルフチェックでも、確認する内容は広くなっています。
公庫の創業計画書セルフチェック項目を見る(9項目)
- 創業する理由やこれまでの経験。
- 誰に、何を、いくらで売るのか。
- 競合する店や会社、市場について調べているか。
- 売上代金はいつ入ってきて、仕入れや経費はいつ支払うのか。
- 何に、いくら必要なのか。
- そのうち自分で用意したお金(自己資金)はいくらなのか。
- 売上や、商品を売るために直接かかる仕入れなどの費用に計算根拠があるか。
- 毎月の経費を漏らしていないか。
- そして、売上から経費を引いた後に残るお金から、借入を返していける計画になっているか。
本文の理解に必須ではありません。実際に申込準備をするときの確認用です。
金融機関がまず確認したいのは、貸したお金を返してもらえそうかです。
その判断をするために、この事業はなぜ成り立つのか、なぜこの金額が必要なのか、借りた後も事業や生活を続けながら返していけるのかを確認します。人・事業・お金の話は、すべて「返していけるか」という判断につながっています。
「月32万円」と書くだけでは足りない
ここからは、融資シリーズで使う架空の一人サロンを例にします。
創業当初の売上予測を「月32万円」と書くだけなら、数字だけは誰でも書けます。では、なぜ32万円なのでしょうか。
図解|売上の根拠を分解する
売上の数字を、説明できる条件へほどいていく
※売上予測は未来を当てるものではなく、数字の根拠を整理するための分解例です。
架空サロンの32万円を分ける
平均8,000円 × 1日2人 × 月20日 = 32万円
さらに、近隣の20〜40代へ、SNSの施術例・予約可能日・料金から予約フォームへつなぐ計画にします。
ここまで分けると、32万円の根拠として、単価・人数・営業日・集客の前提を一つずつ確認できます。
公庫のセルフチェックでも、売上や仕入れ等には計算根拠を持たせ、経費を確認し、借入を返していける計画になっているかを見る構成になっています。
この作業は、自分自身が「この商売、本当にこの条件で回るのかな」と確認するためにも使えます。
自分の業種で読み替える
- サロン型:平均単価 × 1日の人数 × 営業日で売上を分けます。
- 仕入れなしのサービス型:1件・1契約の単価 × 月の件数・契約数で分けます。
- 仕入れあり型:商品単価 × 販売数、または客数 × 1人あたりの購入額で分けます。
「月○万円」だけで終わらせず、なぜその件数・人数を見込むのかまで確認します。
事業が良さそうなら借りられる、でもない
ここも、初めて融資を受ける側からすると分かりにくいところです。金融機関は、事業の内容に加えて今のお金の状態も見ます。
① 事業だけでなく、今のお金の状態も見る
公庫の案内でも、事業計画だけでなく、預金などの資産や住宅ローンなど返す必要のある借入が分かる資料も確認対象です。
信用金庫や地方銀行なども、返せなくなった時のために差し出す不動産など(担保)や保証だけでなく、技術力、売る力、将来性、利益が出そうか、事業が続きそうかなどを合わせて見ます。
つまり、「今いくら持っているか」や「将来性があります」という一つの材料だけでは足りません。人・お金・事業・今後の見通しをまとめて確認します。
② 事業が予定通りいかない時の支えも材料になる
返済できるかどうかは、「この事業の収入だけで返せるか」だけで考えるとは限りません。
たとえば、事業の売上が予定より少なくても、これまでの仕事や資格から「働けばこのくらいの収入を得られる」と現実的に説明できるなら、それも判断材料になることがあります。
ただし、見込みの収入がそのまま認められるわけではありません。どこまで収入として見てもらえるかは、金融機関や制度、仕事の確実さによって変わります。
ここまでの話を一言でまとめると、金融機関は「この人とこの事業なら、借りた後も続けていけそうか」を複数の材料から見ています。
この「事業そのものも見る」という考え方は、最近の制度にも出てきています。制度の例まで確認したい方だけ、下を開いてください。
最近始まった融資制度の例を見る
2026年5月25日から、不動産に加えて、会社や事業そのものの価値も見ながらお金を貸すことを後押しする新しい制度が始まりました。正式には「企業価値担保権」と呼ばれます。
ただし、すべての中小企業融資がこの制度を使うわけではありません。金融機関や融資制度によって、確認する内容や判断のしかたは異なります。
実際の融資申請では、事業計画以外も論点になった
私自身も、創業にあたって融資を申し込みました。ここでは結果そのものより、「何が論点になり、次に何を見直したか」を時系列で見ます。
最初に、公庫へ単独で申し込んだ
最初の日本政策金融公庫への単独申請では、融資を受けられないという結果になりました。その時は、事業計画以外にもいくつか論点がありました。
- 住宅ローンなど、すでに返している借入の負担
- 預金の残高と、それまでどう増減してきたか
- 今後の収入として、どこまで確実に見込めるのか
- 計画している事業が本当に実現しそうか
「事業計画が悪かった」で終わらせず、論点を分けた
ここで気づいたのは、融資結果を「事業計画が良い・悪い」だけで説明すると、次に何を直せばいいか分からなくなることです。
- 事業そのもの
- 借りたい金額
- 住宅ローンなど、今すでに返している借入
- 自分で用意したお金や預金の状態
- 売上の根拠
- 説明できていない部分
どこに問題があったのかを分けると、次に確認する場所が見えます。
その後、信用金庫へ相談し、計画を見直して資金の使いみちを確認した
同じ事業でも、信用金庫では事業内容や資金の使いみちを一緒に確認しながら、融資の話が前向きに進みました。
さらに、その流れで商工会議所を通じて公庫へ相談し直しました。今回は、信用金庫と公庫が一緒に融資する形(協調融資)としての相談で、最初の単独申請とはかなり違う、前向きな感触がありました。
ここから分かったこと
融資では「何を準備するか」に加えて、事業や数字をどこまで確認してから相談に入るかも大事です。
ただし、紹介があれば通る、単独申請なら落ちる、という意味ではありません。
相談経路について、もう少し詳しく見る
紹介・事前相談には、商工会議所のほか、税理士・会計士などの専門家や、別の金融機関からつながるケースもあります。
私は最初、公庫へ単独で直接申し込みました。今振り返ると、先に商工会議所や信用金庫、税理士・会計士などへ相談し、事業計画と資金の使いみちを一度確認してから公庫へ進む方が、話を理解してもらう土台は作りやすかったと感じています。
ただし、これは私自身の経験からの実感です。金融機関や制度、申込者の状況によって判断は変わります。
同じ事業でも、どこに問題があったのかを分け、相談前にどこまで準備できていたかまで見直すと、次に確認する場所は変わります。
私は、融資を3つの方向から見てきました
この話を書く理由があります。私はこれまで、融資について三つの立場に関わってきました。
- 借りる側:自分たちの事業で、実際に融資を申し込む立場
- 支援する側:事業計画、売上の根拠、必要資金、面談準備などを確認する立場
- 見る側:監査法人時代に、信用金庫が融資先をどう評価しているかを確認する立場
この三つを比べると、見えるものが少し変わります。
- 借りる側:『何を書けば通るんだろう』と考えやすい。
- 支援する側: 本人が自分の数字を説明し、その数字を合わせた結果、借りた後も返済しながら事業と生活を続けられる計画になっているかを見る。
- 見る側: 最終的に「返していけそうか」を判断するために、本人・事業・資金・既存の借入など複数の情報をまとめて見ている。
三つの立場で共通しているのは、数字を一つずつ見るだけでなく、計画全体として説明できる必要があることです。
融資対策では、自分の商売を数字と事実で確認し、計画全体に無理がないかを見る。その結果を金融機関にも自分の言葉で説明できるようにする。この順番の方が自然です。
融資を考えているなら、まず自分でここを確認する
金融機関の内部の審査基準を全部調べる必要はありません。外からは分からない部分もあります。
それより、まず自分の事業について、次の質問に答えられるか確認してみてください。ここまで読んだ内容を、自分の数字へ置き換えるためのチェックです。
特に個人事業主は、事業のお金だけでなく、生活費や住宅ローンなど家計から出ていくお金も合わせて見ます。必要なら、働いて得られる収入も含めて考えます。
申込前に、自分で確認したいこと
- なぜ、この事業をやるのか。
- 誰に、何を、いくらで売るのか。
- なぜ、その売上になると考えているのか。
- 何に、いくら必要なのか。
- そのうち、自分ではいくら用意できるのか。
- 個人事業主なら、事業の経費だけでなく、生活費や住宅ローンなど家計から出ていくお金も含めて、借りた後も無理なく返済を続けられるか。
- 事業の売上が予定より少なかった場合に、働いて得られる収入など、返済を支える現実的な選択肢があるか。
全部、完璧に答えられなくても構いません。むしろ、「ここ、説明できないな」という場所が見つかったら、そこが申込前に確認した方がいい場所です。
説明しにくい場所を、紙かスマホに1つ書く
本文のチェック項目を見て、「事業内容」「売上の根拠」「必要なお金」「今のお金」「返済」の中から、今いちばん説明しにくい場所を1つだけ紙かスマホに書きます。
今日は直さなくて大丈夫です。その1行が、STEP02・03でも使う最初のメモになります。
事業計画書は、自分の商売を分解して、「この条件なら、この事業はこう動く」と確認するための道具です。
その結果を、金融機関にも説明できるようになる。その状態を目指せばいいと思います。
まとめ|まず「借りたお金を返していけるか」。そのために他の材料を見る
細かな審査項目は金融機関や制度によって違います。ただ、大きな前提は「貸したお金を返してもらえそうか」です。その判断のために、本人・商売・必要なお金などをまとめて見ます。
借りたお金を返していけるか
売上から経費を引いた後にお金が残るか。今ある借入も含めて、返済しながら事業を続けられるか。
個人事業主なら、生活費や住宅ローンなど家計から出ていくお金も含めます。必要なら、働いて得られる収入も合わせて考えます。
その「返していけるか」を判断するために、次の3つを確認します。
誰がやるのか
なぜ始めるのか。どんな経験やスキルがあるのか。実際に事業を進められそうか。
その商売は現実的か
誰に何を売るのか。なぜその売上になるのか。費用や仕事量まで考えているか。
何に、いくら必要なのか
なぜその金額を借りたいのか。何に使うのか。そのうち自分でどこまで用意するのか。
まず「返していけるか」という本質があり、その判断材料として人・商売・必要なお金を見ます。このつながりを自分の言葉と数字で説明できるようになると、「融資審査で何を見られるんだろう」という漠然とした不安は、具体的な確認事項へ変わります。
この記事で確認した公式情報
確認した公式情報・出典を見る(4件)
- 日本政策金融公庫|創業予定の方
- 日本政策金融公庫|創業計画書セルフチェック(収支計画)
- 金融庁|中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針
- 金融庁|金融仲介機能の発揮/事業性融資の推進(企業価値担保権等)
制度や公式案内は変わる可能性があります。この記事では2026年8月23日時点の情報を確認しています。
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