創業計画書は、「面談の地図」だと思うと分かりやすい

公庫の創業計画書には、書類を面談時間の短縮に使うことが明記されています。

創業計画書で大切なのは、きれいな作文を書くことより、事業の中身を相手に伝えられることです。

創業計画書で伝えること この人が、この商売を、このお金で始めて、その後も続けられそうか
そのための材料 経験商品お客さま必要資金売上・経費今の借入

第1回から見てきた「貸したお金を返してもらえる見込みがあるか」という融資の大前提に、ここでも戻ります。

10個の欄は、5つの話にまとめて考えればいい

公庫の現行様式は10項目あります。でも、初心者が10個を別々の問題として考える必要はありません。

01

なぜ自分がやる?

①創業の動機
②経営者の略歴等

02

何を、どう売る?

③取扱商品・サービス
④従業員
⑤取引先・取引関係等

03

今の状態は?

⑥関連企業
⑦今ある借入

04

何に、いくら必要?

⑧必要な資金と調達方法

05

始めた後、回る?

⑨事業の見通し
⑩自由記述

日本政策金融公庫「創業計画書」位置図 実際の1枚の配置を簡略化しています
創業の動機
関連企業
経営者の略歴等
お借入の状況
取扱商品・サービスまずここ
必要な資金と調達方法次にここ
従業員
事業の見通し(月平均)数字をつなぐ
取引先・取引関係等
自由記述欄

実物では、③の中に「販売ターゲット・販売戦略(集客方法)」「競合・市場など」「セールスポイント(自社の強み)」もあります。今回は、まず③→⑧→⑨を作り、その後に他の欄へ戻ります。

公庫の実際の創業計画書を開く →

こう見ると、ここまでの記事で考えてきた内容が、そのまま並んでいるだけだと分かります。

書く内容は、「事実・仮説・裏付け」に分ける

創業計画書で一番避けたいのは、空欄を埋めるために、それっぽい数字や文章を作ることです。

事実

すでに起きていること

勤務経験、資格、今ある借入、すでに決まった物件、既存顧客など。

仮説

これからどうなると思うか

月の客数、売上、1年後の契約数など。未来なので、絶対の正解ではない。

裏付け

なぜそう考えたか

見積書、過去実績、見込み客、料金表、市場・競合、契約書など。

すでに起きていることは事実として書き、これからのことは予想として書きます。その予想には、今ある裏付けを付けます。この3つを混ぜないだけで、かなり書きやすくなります。

私なら、1番から順番には書かない

公庫の様式は「創業の動機」から始まりますが、初めて作る人がその順番で考え始める必要はありません。

私なら、先に数字と商売の形を固めます。

STEP 1③ 何を、誰に、いくらで売るか
STEP 2⑧ 何に、いくら必要か
STEP 3⑨ 売上・経費・利益はどうなるか
STEP 4② 経験と、①なぜ始めるかをつなぐ
STEP 5④〜⑦の事実と、⑩補足を埋める

こうすると、先に現実の商売と数字を作ったうえで、なぜ自分がこの事業をやるのかを文章にできるので、話に筋が通りやすくなります。

架空例|一人サロンの計画書を、順番に書いてみる

ここからの人物・金額は、説明用に作った架空例です
これまでサロン勤務6年
これから一人で予約制サロンを開業
主な集客既存接点・紹介・SNS
主力単価平均8,000円程度
自分の業種で読み替える
  • サロン型:これまでの経験/提供する施術/単価・客数/集客方法/必要資金を、自分の内容へ置き換えます。
  • 仕入れなしのサービス型:これまでの経験/提供するサービス/単価・契約数/顧客の見つけ方/パソコン・ソフト・広告等の必要資金へ置き換えます。
  • 仕入れあり型:経験/売る商品/単価・販売数/販売方法/設備・仕入れ・在庫等の必要資金へ置き換えます。

この人がこれまでの記事で考えた内容を、創業計画書へそのまま移してみます。

③ 商品・サービス|誰に、何を、どう売る?

書き方のイメージ
事業内容
完全予約制の一人サロン。施術とホームケア商品の販売を行う。
主なサービス
基本施術 7,000円前後/デザイン施術 9,000円前後/ケアメニュー 4,000円前後。
主な対象
近隣に住む20〜40代のうち、待ち時間や担当者の変更が苦手で、予約時間を確保して同じ施術者へ継続して相談したい人。
集客
SNSに施術例・予約可能日・料金を掲載し、プロフィールの予約フォームへ案内する。開業後は来店客からの紹介・口コミも入口にする。
強み
一人で運営するため担当者が変わらず、予約時間を確保して相談から施術まで同じ人が対応する。6年間の施術・顧客対応経験がある。
私の融資相談で、実際に確認されたこと 「それで、何をするのですか」

信用金庫では、サービス名だけでなく、実際に何を提供する事業なのかを確認されました。さらに、売上がどの流れで生まれるのか、会計士として別の働き方もある中でなぜこの事業を選ぶのか、という点まで話しました。

質問のされ方や確認範囲は案件・金融機関によって変わります。これは私の実体験です。

「20〜40代」「SNSで集客」「丁寧なサービス」のような言葉だけなら、誰でも書けます。もう一段だけ、どんな人の、どんな選び方に合うのか/SNSで何を見せて、どこから予約につなぐのか/強みを確認できる事実は何かまで具体化すると、③がそのまま売上予測の根拠になります。

⑧ 必要な資金|何に、いくら必要?

ここは、第5回で作った「必要なものを足して借入額を出す」数字を、創業計画書の⑧へ移す場所です。

何に使う?|必要な資金
物件の初期費用20万円
内装50万円
設備・備品25万円
開業時の材料10万円
開業後しばらくの家賃・広告・消耗品45万円
合計150万円
どう用意する?|調達方法
自分で用意したお金50万円
公庫から借りたいお金100万円
合計150万円
私の信用金庫相談で、実際に確認されたこと 金額だけでなく、「そのお金を何に使うのか」まで確認された

お金の使いみち(資金使途)を一つずつ見ながら、内容と金額を説明できるか、見積書があるか、すでに支払ったものではないかなどを確認しました。用途がはっきりしない単なる「予備費」は、金融機関側も説明しにくいという話がありました。

左右の合計が一致します。金額がまだ決まっていない設備は、先に見積もりを取ります。

これは架空例です。実際に必要な、開業後の家賃・仕入れなど事業を回すためのお金(運転資金)の期間・金額は、業種や計画によって変わります。

⑨ 事業の見通し|売上の掛け算を書く

ここでは、前の記事「売上予測って、どう作ればいい?」で作った掛け算を使います。次に、「創業当初」と「軌道に乗った後」の月平均を考えます。

創業当初

8,000円 × 2人 × 20日

月売上 32万円

最初から満席とは考えず、まずは1日2人の予約で計算します。

軌道に乗った後

8,500円 × 3人 × 22日

月売上 約56万円

リピートが増え、営業日も増える想定で、単価と人数をそれぞれ計算します。

売上予測の作り方は STEP 06単価×件数と根拠の作り方を見る →
私の信用金庫面談で、実際に確認されたこと 「売上が、どのような流れで計上されるのか」

売上の最終金額だけではなく、講習会・初回面談・顧問契約など、どこからお客さまが入り、どの商品で売上になるのかを説明しました。初回の公庫審査でも、顧問売上を継続して積み上げられるかが論点になりました。

経費も、材料費・家賃・広告費など、自分の計画で使っている数字を書きます。

①・② 動機と経歴|経験から「なぜ自分がやるのか」を書く

数字と商売の形が見えた後なら、創業動機も書きやすくなります。

これだけだと弱い

昔から自分のお店を持つのが夢だったため、独立します。

経験まで書く

サロンで6年間、施術・予約管理・顧客対応を経験してきた。これまでの経験を生かし、一人ひとりの予約時間を確保した小規模な予約制サロンを始める。

私が信用金庫で、実際に聞かれたこと 「もっと高い収入を得られる仕事があるのに、なぜ小規模事業者向けの事業をやるのですか」

ここでは、これまで見てきた現場の課題と、自分の経験にどんな関係があるのかを説明しました。創業動機は、気持ちに加えて「なぜ自分がこの事業をやるのか」を確かめる欄でもあります。

夢や思いも大切です。そこに経験・準備・事業内容が加わると、「なぜこの人がこの商売をやるのか」が伝わります。

④〜⑦ 今ある事実|分からない欄ほど、事実から埋める

従業員、取引先、関連企業、今ある借入は、格好よく見せる欄ではありません。

  • 従業員:一人で始めるなら、その事実を書く。採用予定があるなら予定人数を確認する。
  • 取引先:一般のお客さまへの販売なら、その形と代金を受け取るタイミングを書く。仕入先があるなら支払条件も確認する。
  • 関連企業:自分や配偶者が経営する別事業・会社がある場合に確認する。
  • 今ある借入:住宅ローン、車、事業借入など、該当するものを残高・返済額と一緒に書く。

今ある借入も正しく書き、新しい返済を加えても続けられるかを見るための材料です。

私の場合、創業計画書1枚だけでは終わらなかった

私自身が公庫へ申し込んだ時は、公庫様式の創業計画書だけでなく、別に作った事業計画書も提出しました。

さらに、設備の見積書、契約の裏付け、預金や借入の資料など、計画書に書いた内容を確認できる資料も用意しました。

創業計画書全体を短くまとめる
別紙・資料数字や事実の根拠を見せる

これは「全員が同じ量の資料を出す」という意味ではありません。私の場合に実際に出したものです。

公庫の様式自体も、事業内容の詳細が分かる計画書など、参考資料があれば一緒に提出できる形になっています。1枚の小さな欄に、全部を無理やり詰め込まなくて大丈夫です。

書く時に、やらない方がいいこと

01

先に借入額を決める

必要なものを足した結果として、借入候補を出す。

02

売上を「月100万円」だけで書く

「月100万円」とだけ書かず、単価×件数などへ分ける。

03

全部を強気にする

売上だけ伸ばし、経費を小さくする計画にしない。

04

弱い場所を隠す

分からない・根拠が弱い場所は、確認する場所として残す。

提出前は、この5つだけつながっているか確認する

創業計画書の最終確認

  • 自分の経験と、始める事業がつながっているか
  • 商品・単価・お客さま・集客方法がつながっているか
  • 必要な資金の合計と、用意するお金の合計が合っているか
  • 売上が「単価×件数」などで説明できるか
  • 売上から経費を引いた後、返済を続けられそうか

文章のうまさより、このつながりの方が大切です。

まず5分だけやるなら

まず5分だけ

創業計画書の③・⑧・⑨に丸をつける

③何を売る、⑧何にいくら必要、⑨月にいくら売れそう、の3か所だけ確認します。

今日は埋めなくて大丈夫です。「書ける/要確認」を分ければ、書き始める場所が決まります。

まとめ|創業計画書は、これまで考えたことを「1枚の地図」にする

大前提

立派な文章を作ることが目的ではない

誰が、何を、誰に、いくらで売り、何にお金が必要で、その後も続けられるかを確認できる形にします。

01

事実

経験・借入・決まった条件を書く。

02

仮説

これからの売上を、単価や件数まで分けて書く。

03

裏付け

見積・実績・市場などで理由を付ける。

04

つながり

経験→商品→資金→売上→返済を一本にする。

空欄をきれいに埋めるより、「なぜこの数字なのか」を自分の言葉で説明できる状態の方が、面談でも役に立ちます。

この記事で確認した公式情報

公式様式・記入例を見る

様式や項目は改訂されることがあります。実際に提出する時は、公庫の最新ダウンロードページから現行様式を確認してください。

次の記事

融資の面談では、実際に何を聞かれる?

創業計画書を作ったら、次はその内容を金融機関と話します。丸暗記する必要はありません。次の記事では、実際にどんな質問が来たか、どこを確認されたかを扱います。

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